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曖后のピッケ パイロット版 -セルヒム小王国編-
登場人物(男/女/不問比:5/6/3:計14名分)-------------------------:
ピッケ:演者推奨♀または児童♂♀
小さな妖精の柔和ショタ。指揮魔法と精霊魔法(精霊召喚含む)を扱うバッファー兼ソーサラー。
武器は指揮棒/擬似惑星/隕石。陽光と魔指揮者の称号持ち。一人称:ぼく
指揮棒を持ち手に例えて仮想武器を形成することも出来る。形成した武器に関する固有技にはアストラルの字が前に付く。
固有技:アンタレスフレイム(浄化の炎)レスト(停止/催眠)など
フード付ローブに合わせて穿く下着など存在しないが水浴びの際は水着姿に。
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コタロウ:演者指定不問(但し少年声で)
孤児やんちゃショタ忍侍(しのびざむらい)。刀(短刀含む)と武技/忍術/超能力(チャクラ)を扱うアタッカー。
アーティファクトに感応することで能力が開花。俊足の称号持ち。一人称:おれ
固有技:直伝弥七流●●/直伝影流●●/我流●●/●遁など
下着は六尺褌を愛用している。
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アルク=ヴァルキュリオ:演者推奨♀または児童♂♀
姓の通りヴァルキリー族のクールロリショタ。剣/槍/弓/盾(盾は複数浮かせる)と族技/魔法を扱うタンク。
普段は顔を兜で隠しており、声が高い為に性別を誤解される。鋼鉄の称号持ち。一人称:不使用
固有技:ドラゴンスロワー(竜を投げ飛ばす者)コントロルシールズ(盾複数操作)など
下着はスパッツのような形状のものを愛用している。
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タイラン=セルヒム:演者指定♂
セルヒム大王国を賛美する内容の劇台本(書きかけ)を貴族へ提出し、大王国に雇われた劇作家。
大王国からの前金として、城内に住むこととセルヒム姓を名乗ることが許されている。
自ら取り決めた予定に毎回寝坊して遅れる。前触れもなく役者に雷を落とす。
対抗されるとマスタースレイブ(魔法)により対象を無理やり従属させる。
ピッケ達はアルティシアの護送中タイランに見付かり、彼とその側近との戦闘へともつれ込むことになる。
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アルティシア:演者指定♀
タイランの審査に合格した愚直な女役者。
これまで大王国劇の主演を勤めていた女役者ラミーナからの一言によりオーディションを受け、合格するに至る。
他の演者が抱いていた不満を代わりに伝えたことでタイランの反感を買い、雷を落とされ、城の牢屋まで運ばれてしまう。
牢屋にいる間、彼女は家族に手紙を出すことが出来ずに困っていた。
彼女は「どんな役であれ演者が劇世界を知ることは劇にとって有益」と考えている。
彼女の安否を確かめることがピッケ御一行の今回の目的。
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ラミーナ:演者指定♀
かつて大王国劇の主演を勤めていた女役者。
巡り会ったアルティシアの資質を見出し、新作大王国劇への出演を薦める。
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道具屋の主人:演者指定♂
城下町で物売りをしている男。
連絡を寄越さなくなった娘のことを心配している。ピッケ御一行にタリスマンを託す。
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道具屋の主人の妻:演者指定♀
城下町の物売りの主人の妻。
情けない声を上げる主人の尻を叩くのが日課。娘の無事を信じている。
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門番:演者指定♂
任務に忠実なセルヒム城の門番。その性根は穏やか。
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ダリー:演者指定♂
タイランの審査に合格したものの、役が無い男。
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シュモヌ:演者指定♀
タイランの審査に合格したものの、役が無い女。
劇作家への不満をアルティシアにぶつけ、彼女を酷く困らせた。
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騎士(審査スタッフ兼):演者指定♂
タイラン附の警護騎士。
騎士たるものとして当然それなりの鍛錬を積んでいるようだが・・・。
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指揮者(マスタータクト兼):演者指定不問
王立楽団の指揮者。知りもしない者に易々と手を貸すことはないようだ。
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ナレーション:演者指定不問
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ラミーナ(M):
ねぇ。もしこれから誰かに不当な圧力を掛けられるとしたら、あなたはどうする・・・?
堪える?それとも、立ち向かう??
ナレーション:
度重なる苦難を乗り越えて、この星を照らす旅を続けるピッケ御一行は、休息と情報収集を兼ねて、セルヒム大王国へ立ち寄った。
このセルヒム大王国圏内には主要な設備の他に王立劇場と王立図書館があり、様々な娯楽や情報が整っている。
コタロウ:
手裏剣!この城下町の武器防具屋で手裏剣が売ってる!そんな予感がする!!
アルク:
オリエンタルのオの気配すら感じないんだが・・・?お前は本当に諦めの悪いやつだな。
ピッケ:
まぁいいじゃない!コタロウに付き合ってあげようよ。
ナレーション:
城下町の武器防具屋に立ち寄った御一行。
コタロウ:
・・・。
アルク:
ここでも、お前用の装備は一つも売ってなかったな。
コタロウ:
あぁ、肩身が狭い・・・!
ピッケ:
もしかしたら道具屋に置いてあったりしてね。
コタロウ:
行こうぜ道具屋!
ナレーション:
城下町の道具屋に立ち寄る御一行。
ピッケ:
こんばんはっ!道具屋さん、手裏剣を売ってたりしてなぁい?
道具屋の主人:
この道具屋では和物は扱っていないよ、悪いね。そんなことより・・・。
この世で志を全うすることは容易ではない。
心が強ければ、それが意思を貫き通す力となるが、不安ならタリスマンでも握っておけ。
何もないよりはマシだろう。
ナレーション:
格式ありそうなタリスマンを御一行に見せる道具屋の主人。
ピッケ:
あ!これ、防具屋にも置いてあったタリスマンだね。おじさんが作ってたの?
道具屋の主人:
このタリスマンは私の手作りでね。祈りの際に重宝すると言うことで、買って貰えるんだ。
不思議と真っ直ぐな気持ちになれるとの評価を戴いて、物作りに関わる人や酒場の調理人も愛用してくれるよ。
ナレーション:
そうは言いつつ、首に提げたタリスマンを片手で震えながら握っている道具屋の主人。
コタロウ:
おい、震えてるじゃねえか!嘘臭えなぁ。
ピッケ:
でも、武器防具屋の主人さん、このタリスマンを首に提げてたよ?
コタロウ:
えっ?!マジで?
ピッケ:
うん。
アルク:
流石。よく見てるな!
ピッケ:
・・・。おじさん、何か悩み事?
ナレーション:
ここで、屋内から主人と近い歳と思われる女がやってくる。
道具屋の主人の妻:
またあの文句でお客に自己紹介かい。
役者になった娘が手紙を寄越さなくなったくらいで、売り物のタリスマンを震えながら握ってるんじゃないわよ!全く・・・。
城の中にいるんだから、娘は安全に決まってるじゃないか。
コタロウ:
・・・ははぁ~ん!
道具屋の主人:
あれから一ヵ月も連絡がないんだぞ!
道具屋の主人の妻:
それは確かにそうねぇ・・・。
あ、あんたたち!身なりからして冒険者かい?子供なのによくやるねぇ!よし、頼もうじゃないか!!
ピッケ:
ぼくたちが、娘さんの様子を見に行けばいいの?
アルク:
引き受けるのか?
コタロウ:
おいおい!おれたち疲れ切ってるんだぜ?
ピッケ:
様子を見に行くだけなら大したことにならないよ。だから引き受けよう?
コタロウ:
・・・しゃあねぇなぁ。
ピッケ:
と言うことで、ぼくたちが引き受けるよ!お礼なら別に___
道具屋の主人:
いや、この人数分のタリスマンを是非受け取ってくれ!!ついでに一つ、娘にも届けてくれないか?
ピッケ:
これ・・・、いいの?
道具屋の主人:
私たちの悩みを解消してくれるんだ・・・。このくらい構わんよ!
ピッケ:
じゃあ、受け取るね!娘さんにもちゃんと届けるよ。
道具屋の主人の妻:
ありがとうね。坊やたち!
道具屋の主人:
娘、アルティシアのことを、宜しく頼むよ。
ピッケ:
任せといて!
ナレーション:
道具屋から出てきた御一行。
アルク:
・・・とは言ったものの、どうやって城内に入るんだ?簡単に入れて貰えるのか?
ピッケ:
取り敢えず、城門まで行ってみようよ!
コタロウ:
そうだな!
ナレーション:
セルヒム城の門までやってきた御一行。
アルク:
やはり門番が居るな・・・。
ピッケ:
ごめん下さいっ!アルティシアさんに会わせて貰えませんか?
コタロウ:
あいつ!真正面から交渉かよっ!?
ナレーション:
門番に一瞥される御一行。
門番:
子供か・・・。きみたちを城の中へ通すわけにはいかないよ。ちらかされたら大変だからね。
だけど一つだけ、合法的に城の中へ入る方法があるよ。
この門の右側に大きな建物があるだろう?あれは王立劇場と言ってね・・・。
そう。近々大王国劇の役者を募る中途オーディションが催されるんだ。
そのオーディションに受かって良い役を貰えれば、しばらく城の中で暮らせる可能性があるってわけさ。
ピッケ:
それって、ぼくたちみたいな子供でも、受けられるの?
門番:
それは劇作家様の御意向次第だろうけど、それ以外に城へ入る方法はないよ。
ピッケ:
門番さん、ありがとうっ!!
門番:
どういたしまして。ふふっ!きみたちの活躍を愉(たの)しみにしているよ。私も観るからね。
ナレーション:
門番から離れた御一行。
コタロウ:
こりゃあ面白いことになってきた~っ!!なぁなぁ!城の中で暮らせるんだぜ?最高じゃん!!
意地でもオーディションに受かって、豪華な食事を堪能してやるっ!!
ピッケ:
うわぁ・・・。コタロウ、食い意地張ってる!
アルク:
呆れたやつだな。
ナレーション:
そして中途オーディション当日。審査は王立劇場で行われた。
赤を主体に金白黒で彩られた、とても豪華なハット、コート、スリーヴ、サッシュ、ブリーチ、ブーツを着込んだ男が話を始める。
タイラン:
やぁやぁ諸君!新作大王国劇のオーディション会場へようこそ。私が今回の大王国劇の劇作家であるタイラン=セルヒムだ。
きみたちには今回、順番に私からの演技注文を受けて感情表現をして貰う。いいね?
コタロウ:
(周りに聞こえない程度で)おれの演技に腰抜かすなよ!お前!
ピッケ:
(周りに聞こえない程度で)コタロウ、調子いいんだから。
アルク:
・・・。
ピッケ:
(周りに聞こえない程度で)アルク、緊張してるの?
アルク:
(周りに聞こえない程度で)・・・演技と言うのは、嘘をつくことなのだろう?これまで、一度も嘘をついたことが無くてな。
コタロウ:
(周りに聞こえない程度で)演技ってのはな!お前らの言語で言うとフィーリングだ!!設定から呼び起こされうる全てを感じて表現するんだ!!
アルク:
(周りに聞こえない程度で)コタロウ。お前やったことあるのか?演技を。
コタロウ:
(周りに聞こえない程度で)いや、一度もない!
アルク:
(周りに聞こえない程度で)・・・そうか。
ピッケ:
(周りに聞こえない程度で)ぼくは3番、アルクは4番、コタロウは5番だから、もうすぐ呼ばれるね。
審査スタッフ:
エントリーナンバー3番、前へ。
ピッケ:
はいっ!(周りに聞こえない程度で)ぼくの番だ!!
コタロウ:
行ってこい!!
アルク:
達者でな。
ピッケ:
エントリーナンバー3番、妖精のピッケです!
ナレーション:
軽く宙を舞ってみせるピッケ。
タイラン:
本物の妖精か・・・!これは貴重だ。よく来てくれた!!
ふむ・・・。安全で見栄えのする魔法を、何か一つ使ってみてくれないか?
ピッケ:
はい。・・・ルビーストーム!!
ナレーション:
ピッケが指揮棒で宙に大きな円を描き、魔法を掛ける。
紅玉色に輝く美しい嵐が、一時的に王立劇場内で巻き起こる。
タイラン:
何と美しい・・・!!もういいよ。下がりたまえ。
ピッケ:
はい。
コタロウ:
(周りに聞こえない程度で)おい。あの魔法・・・、ズルいじゃねぇか。
ピッケ:
(周りに聞こえない程度で)安全で見栄えのする魔法って、あれくらいしかないもん。仕方ないでしょ?
コタロウ:
(周りに聞こえない程度で)言われてみりゃそうか。
審査スタッフ:
エントリーナンバー4番、前へ。
アルク:
ハ、ハイ!!
ピッケ:
(周りに聞こえない程度で)アルク、顔!顔!!硬いよっ!!
コタロウ:
(周りに聞こえない程度で)これ無理だろ・・・w
アルク:
(カタコトで)エッ、エントリーナンッバーヨンッ番!アルク=ヴァルキュリオッデス!!ヨ、宜シックオ願イシッマス!!
コタロウ:
(笑いが込み上げる)ぷくくくくくく・・・っ!!www
ピッケ:
(周りに聞こえない程度で)後でどうなっても知らないよ?コタロウ。
タイラン:
ほう、ヴァルキリー族か!その未だ子供のような成りで鎧甲冑を着込めるのも当然と言うことか。
しかし硬い。硬いな・・・。よし、何でもいい!好きに格好を付けて、一声掛けてみたまえ。
アルク:
(妙に裏返った声で)タ、タア"ーーーッ!!
コタロウ:
(笑いを堪え切れない)くっ!ははっ!ははははっ!!やべぇ~腹痛ぇ~っ!!
タイラン:
もういい!もういい・・・。下がりたまえ・・・。はぁ。
ナレーション:
顔が赤いまま舞台を降りるアルク。
アルク:
コタロウ。お前、笑っただろ!
ナレーション:
コタロウの袴(はかま)を見事に斬り落とし、彼の股を公然の元に晒すアルク。
コタロウ:
げえっ!アルク、お前!!何てことしやがるんだっ!!
アルク:
演技には自信があるんだろう?その恰好で行けばいいじゃないか。六尺褌は斬ってない。安心しろ。
審査スタッフ:
エントリーナンバー5番、前へ。
コタロウ:
この野郎・・・っ!!仕方ねぇ。行くか。
ナレーション:
褌姿を晒しつつも、舞台へ上がるコタロウ。
コタロウ:
エントリーナンバー5番、卍村出身、コタロウ見参!
タイラン:
卍村・・・!遠路遥々(はるばる)よく来てくれた!!なるほど肌も黄色いわけだ。
誰かに袴を斬られたようだが、それが卍村の下着かね?実にシンプルだ。
・・・と言う事は、武技を披露出来たりもすると?やってみたまえ。
コタロウ:
御意(ぎょい)!・・・直伝影流、水蓮衝!!
ナレーション:
どこかから一瞬で持ち出した小さな角材を片手で天高くへと放り投げ、それを鮮やかな身のこなしで縦横無尽に切り刻むコタロウ。
コタロウ:
へへっ、どんなもんだ!
タイラン:
これが武技・・・!素晴らしい!!我が大王国直属の名誉騎士でも真似出来ないだろう。見世物として十分だ。
タイラン:
・・・きみの為の役を前向きに考えておくよ。下がりたまえ。
コタロウ:
はい!
ナレーション:
褌姿をものともせず、劇作家の期待に見事応えてみせたコタロウ。
コタロウ:
んふ~っ!どうだアルク!ギャフンと言え!!
アルク:
そうかそうか。じゃあコタロウには更にもう一段格好良くなって貰わないと、な!
ナレーション:
そう言って、コタロウの上着を斬り落とすアルク。
コタロウ:
ああっ!またひでぇことしやがった!頼むピッケぇ~修理してくれよぉ~!!
ピッケ:
コタロウが泣いちゃったよ。手加減してあげてよね。アルク。
アルク:
調子が過ぎたからな。
ナレーション:
順繰りに審査が続き、中途オーディションは恙無く(つつがなく)終わりを告げた。
タイラン:
オーディションの合否は3日後の朝、城門前にて発表させて貰う。
其々(それぞれ)自信を胸に、暫く待っていたまえ!
エントリーナンバーを忘れないように。
ピッケ:
(周りに聞こえない程度で)結果、楽しみだね!
アルク:
(周りに聞こえない程度で)ルビーストームを唱えたお前なら大丈夫だろう。これで依頼達成の可能性が見えてきたな。
コタロウ:
(周りに聞こえない程度で)おれも受かって、お前の分までメシ食ってやるから安心しろ!
アルク:
(周りに聞こえない程度で)そうかそうか、恥じらいの生命線まで斬り落とされたいか。コタロウ?
コタロウ:
ひっ!?(周りに聞こえない程度で)・・・おいおい声がマジだぞ。ピッケもケンカは止めようっていつも言ってるじゃないか。
アルク:
(周りに聞こえない程度で)毎回だが、お前が言い出したんだろう・・・?
ピッケ:
(周りに聞こえない程度で)・・・止めて。
アルク:
(周りに聞こえない程度で)・・・済まない、ピッケ。
コタロウ:
(周りに聞こえない程度で)やーい!
アルク:
!!
コタロウ:
ぎゃあーっ!!六尺褌が!股間がぁ~っ!!
アルク:
(周りに聞こえない程度で)・・・これで気は済んだ。
ピッケ:
(周りに聞こえない程度で)反省したら、隠すの手伝ってあげてもいいよ。コタロウ。
ナレーション:
そして結果発表の日。ピッケ達は、城門前に立てられたボードの前までやってきた。
ボードの上の行には、大きく「採用された者は、門番へ話し掛けること。」と書かれている。
その下には、採用された者のエントリーナンバーが列挙されていた。
ピッケ:
3番・・・3番・・・、あ!あった!!
コタロウ:
5番あったーっ!うっしゃあ~っ!!
アルク:
4番は・・・っ!?
コタロウ:
あの演技でお前の番号なんてあるわけ・・・、ぁあっ?!
アルク:
あった・・・!!
コタロウ:
どうなってんだ!?理解出来ねぇ・・・!!
ピッケ:
まぁ悪いことじゃないんだし。みんな受かって良かったよね!!
ナレーション:
門番に話し掛ける御一行。
ピッケ:
門番さん!ぼくたち受かりましたっ!!これで城内に入れるかな・・・?
門番:
きみたちか!合格おめでとう!!私が中途オーディションを紹介したのは悪くなかったようだね。
これで城内に入れるかは分からないけど、取り敢えず仕事としてエントリーナンバーと名前を聞いておくよ。
ピッケ:
エントリーナンバー3番、ピッケです!
アルク:
エントリーナンバー4番、アルク。
コタロウ:
エントリーナンバー5番、俊足のコタロウ!!
門番:
ははは!一人やたらと気合いの入った子がいるね!!面白い。
確認は取った。オーディション合格者は城門右の王立劇場内へ正面から入って貰うよ。
玄関に受付が居るから、このエントリーナンバーが書かれた札を渡しなさい。
さぁ、行っておいで!子供たち!!
ピッケ:
うん!門番さん、ありがとうっ!!行ってくるね!!
ナレーション:
城門右の王立劇場へ向かい、劇場内の受付に番号が書かれた札を人数分、手渡しする御一行。
奥へ入ると、手前にずらずらと座席があり、その向こうには舞台があった。手に紙の本を持った人が何人も居る。
ピッケ:
あの!ぼくたち、オーディションに合格したんですけど!!
ナレーション:
御一行の元へと、手に紙の本を持った人の中の二人が、歩いてやって来る。
シュモヌ:
・・・中途オーディション合格者?
ピッケ:
はい!
ダリー:
あそこに置いてある台本を、一人一部、手に取って台詞を覚えるんだ。
シュモヌ:
配役表に持ち役が書いてあればいいけどね。
ピッケ:
ありがとう御座います!
ナレーション:
台本を手に取り、持ち役を確認する御一行。
ピッケ:
ぼくの持ち役は・・・、あった!皇室魔導師の使い役!!
アルク:
・・・大王国附の騎士役か。
コタロウ:
おれの役おれの役っと・・・お、これか。ええと・・・。な、何ぃ!?異邦のコソ泥役~?!
アルク:
・・・プフッ!
コタロウ:
アルク、覚えてろよ・・・!!
シュモヌ:
持ち役があるだけマシよ。アタシとダリー、他にも大勢、役が無いんだから。役を与えて貰えるのは一握りなの。
アルク:
・・・役が無い?
シュモヌ:
そう。採るだけ採っておいて、放っとかれてるの。劇作家様が素人だから仕方ないんだけどね。
ピッケ:
劇作家様が素人・・・?
シュモヌ:
アンタたち、知らないの?こないだ大王国附の劇作家様が亡くなったのよ。
今の劇作家様は、ソコを狙って草案を出して成り上がったワケ。
コタロウ:
だからおれがコソ泥役なのか・・・!
アルク:
・・・無関係だろう。
シュモヌ:
まぁアタシたちには関係ないわ、そんなこと。役が無いまま一ヵ月が過ぎたのは虚しいけど。
ダリー:
俺たち、いつになったら役を与えられるんだろうな。
シュモヌ:
さぁね。
ナレーション:
ここでアルクが台本の違和感に気付く。
アルク:
・・・おい、何だこの台本。辞書にない言葉遣いが混じってるぞ。誤字脱字も多い。
出てくる役の名前も、同じ音数で同じ母音のものが三つもある・・・。これは良くないんじゃないか?
それに・・・、配役表の中にアルティシアが居ないじゃないか。
シュモヌ:
言葉遣いについては、劇作家様の無意義なエゴよ。
造語でもないし貴族言葉でも軍人語でも庶民語でもないから、ツッコミたくなるのも分かるわ。
これらの役の名前も、確かに人間違いを誘発しそうね。劇作家様のミスだわ。これがわざとなら話は別だけど。
アルティシアのことは・・・、ダリー、アンタが話しなさいよ。アンタが。
ダリー:
原因を作ったのは、そもそもお前じゃないかシュモヌ・・・。お前が話すんだ。
シュモヌ:
アルティシアが一人で勝手に直談判しに行ったのよ!
ダリー:
お前が毎度のように愚痴を零すからだろ・・・。アルティシアはお前の気持ちを汲んで身を切ったんだぞ。
シュモヌ:
何よ!何なのよダリー!!
ダリー:
はぁ・・・。まぁそう言うわけだ。アルティシアは劇場と繋がっている城の地下牢の中。ここに戻って来れる保証は無い。
ピッケ:
アルティシアさんが手紙を出さなくなったの、そんな事情があったからなんだね。
ダリー:
お前ら、アルティシアの様子を見に、わざわざオーディションを受けたのか・・・。残念だったな。
ピッケ:
どうしよう。依頼失敗になっちゃうかな。
コタロウ:
いや、劇場は城と繋がってるんだよな。だったら忍び込もうぜ!
ダリー:
お前、正気か!?
コタロウ:
だって、おれたち役者志望じゃねえもん。もっとすげぇ旅してるし!これは、ほんのついでだからな。つ・い・で!!
アルク:
お前はそれ以上に皇室の飯が目当てだっただろう。
ダリー:
皇室の飯は食えんぞ。貴族扱いの極一部の役者を除いてな。お前コソ泥役だろ?じゃあ無理だ!無理。
コタロウ:
何ぃいいいい~っ?!ああ・・・何てこった・・・!おれのメシ・・・メシが・・・!!
ピッケ:
まぁまぁコタロウ。
コタロウ:
あぁあああああああ~っ!!
アルク:
全く、大袈裟なやつだ。
ダリー:
あぁでも、ピッケって言うのか?お前。お前なら皇室の飯が食えるかも知れんぞ。割と良い役みたいだからな。
ピッケ:
ぇ?
コタロウ:
ピッケ、頼む!役を代わってくれっ!!
アルク:
お前は魔法を使えないだろうが。
シュモヌ:
・・・あら、中途オーディションの合格者が他にも居るわ。役持ちは、この三人だけなんだけど。
ピッケ:
ねぇ、どうして役無しの人が採用されるの・・・?
シュモヌ:
そんなの簡単。この台本、終わりまで書いてないの。単に劇が未完成なのよ。
なのに人だけは大勢集めてるってわけ。大王国に雇われているだけ光栄に思え!ってお考えよ。
ピッケ:
ちょっと酷いね。
シュモヌ:
アンタもそう思う?でもコレだけじゃないのよ、酷いところは。
ダリー:
・・・そろそろだな。上から何が落ちてきても避ける心構えをしておけよ。
ピッケ:
?
ナレーション:
静かな舞台の遠くから、足音が響いて聞こえてくる。そして___
舞台の上に暗雲が現れ、そこから幾つもの雷がズドンズドンと落ちる。ピッケ御一行は雷を何とか避ける。
シュモヌやダリー、他の役者も避ける。他の中途オーディション合格者は何も知らなかったせいで雷を喰らってしまった。
ピッケ:
こんなこと、一体誰が・・・!!
シュモヌ:
時間を決めたのは向こうなのに、遅れて来ておいて
「私が遅刻するのは、お前たちが私を忙しくするからだ!」とのお考えよ。それがこの雷。
毎度毎度遅れる理由は単なる劇作家様の寝坊だって噂されてるわ。
ナレーション:
舞台の裏から男が登場。とても豪華なハット、コート、スリーヴ、サッシュ、ブリーチ、ブーツを着込んでいる。
これはどう見ても___
タイラン:
やあ。熱心に私の台本を読んでいるかね?おぉ、中途オーディションの合格者か!
君たちは我が審査に選ばれた!!それを誇りに思うがいい。
私は君たちを同じ志を持つ者として歓迎するよ。劇の完成の為に思うことがあれば互いに話し合っていこうじゃないか。
タイラン:
演目を開始する!今日の範囲は01~37までだ。中途オーディション合格者は客席で見ていたまえ。
ナレーション:
そして演目の通し練習が終わった。
タイラン:
中途オーディション合格者の諸君は、各々台詞を把握しておくように。
ではこれで、今日のところは終わりとする。御苦労!!
コタロウ:
ふひーっ!やっと終わったかぁ。こんなに長いんだなぁ・・・。
ピッケ:
じゃあそろそろ、アルティシアさんに___
コタロウ:
会いに行くかっ!!
アルク:
世話になったな。
ダリー:
何だか知らんが、まぁ頑張れよ~!
ナレーション:
城へと通じる通路の前に辿り着いた御一行。
そこは鉄格子の扉で閉ざされていた。騎士が鍵束を握りながら守をしている。
ピッケ:
この距離から。レスト!
ナレーション:
ピッケが指揮棒を守に向けて、休符を掛ける。
通路の守が眠り倒れて、鍵束を手放す。鍵束に手が届きそうだ。
ピッケ:
コタロウ!刀!刀!引っ掛けて!!
コタロウ:
よっしゃ!!
ナレーション:
守から鍵束を奪い取ることに成功した御一行。
御一行は鍵を解き、城へと向かった。
ピッケ:
なるべく戦闘はしたくないから、見付かったらレストで寝かせるね。
アルク:
分かった。
コタロウ:
了解!
ナレーション:
無用な戦闘を避けて城の中を進み、何とか地下牢へと辿り着いた御一行。
ピッケ:
番人さんに。レスト!
ナレーション:
地下牢の番人が眠り倒れる。牢の中には若い女性が一人だけ閉じ込められて居た。
アルティシア:
・・・誰?
ピッケ:
アルティシアさん、かな?
アルティシア:
まさか、助けが来たの・・・?
コタロウ:
まぁそんなところ。手紙を寄越さなくなったって、親が心配してるぜ。
アルティシア:
そう。分かってたわ。大丈夫だから心配しないで、って言っておいてくれるかしら。
アルク:
あなたは、ここから出ないつもりなのか?
アルティシア:
ええ。私は試されているのよ。勝手にここから出て行くわけにはいかないわ。
ここは、台本を読むことも手紙を出すことも出来ないけれどね。
コタロウ:
どうしてそこまで!
アルティシア:
私をこの劇に誘ってくれた人がいるの。その人、ラミーナさんを裏切らない為よ。
ラミーナさんは今までの大王国劇の主演を勤めていたの。演技だけじゃなく歌も上手で、私の憧れの人なの。
タイラン様の劇からは身を引くと言っていたけれど、それでも私の憧れに変わりはないわ。
アルク:
・・・分かった。しかし気になることがある。
どうしてあなたみたいな人が地下牢に閉じ込められているんだ?
アルティシア:
・・・起きて来ないかしら?
ピッケ:
ぁ、一晩寝るくらいにしてあるから大丈夫だよ。
アルティシア:
ありがとう。じゃあ私が今ここにいる事情を話すわね___
ナレーション:
アルティシアの回想が始まる。
アルティシア(M):
あの日は確か雪が降っていたっけ___
私はいつも王立公園で独り、歌の練習をしていたの。
そこへラミーナさんが現れて、こっそり私の歌をよく聴いてくれていたみたいで。
ラミーナ:
大王国劇に出てみない?良い声してるもの。きっと歌も歌えるわよ!
アルティシア:
私、大王国劇に出られるんですか!?
ラミーナ:
たぶん受かるわ。私はもう大王国劇には出ないけど、私の分まで頑張ってね!
アルティシア:
そんな!?どうして?!
ラミーナ:
私はね、あの人が作った劇しか出る気がしないのよ。
アルティシア(M):
ラミーナさんが歌を聴いてくれただけでも、飛び上がるほど嬉しかったのに!
それからオーディションを受けて、脇役を貰えて、この城の中の一室に住むことも出来て。
王立図書館へ通って、演技について学んでみたりもしたわ。
だけど、タイラン様があんまりで___
アルティシア:
タイラン様、この劇の舞台設定について教えて戴きたいのですが。
タイラン:
私がそれを教えることに、意義があるのか?
アルティシア:
・・・え?
タイラン:
お前はこの劇の舞台設定を役に活かせるのかと聞いている。
アルティシア:
・・・自信はありませんが。
タイラン:
設定を活かせない脇役風情が私に無駄な時間を取らせようなど、許されるわけがないだろう。
アルティシア:
タイラン様は、同じ志を持つ者を歓迎すると、
互いに劇について話し合っていこうと言って下さったじゃないですか!
タイラン:
黙れ!・・・フン、向こうへ行け。
アルティシア(M):
私は、どんな役であれ役者が劇世界を知ることは劇にとって有益だと考えていたの。
舞台設定について知るだけでも、劇が良くなると思っていたの。でもタイラン様にそんな考えは無かったわ。
ここまでは、まだ私の牢送りに繋がることはなかった。でも___
アルティシア:
タイラン様、私はもう見て見ぬ振りは出来ません。役の無い者に、何か役をお与えになって下さい。
役者の皆さんは時間を守っています。タイラン様、私たちに雷を落とすのを、どうかお止め下さい。嫌われてしまいます。
忙しかったのは分かります。ですが・・・、タイラン様が嫌われてしまうと、全てを前向きに考えている役者もまた苦しい思いをしますから。
タイラン:
私に歯向かうのか!フン!!・・・地下牢へ連れて行け。
アルティシア:
そして私は雷を落とされて、もう一ヵ月、この地下牢の中にいるわ。
両親へ手紙を出そうにも、反逆の恐れありと見なされて、相手にして貰えなかった。
こんな目に遭ったけど、私、周りの人たちの言っていたことが間違いだったとは思えないわ。
でも私がそれを言ったのは、間違いだったのかしらね・・・。だから私は、誤解されてしまったの・・・?
ピッケ:
楯突かれたように見えたんだね。
アルク:
邪魔だと思われたんだな。
コタロウ:
酷い話じゃねえか!
アルティシア:
でも、城から追い出されていないことを鑑みるに、まだ私には見込みが残っているのよ。
だから、もう少し粘ってみるわ!ここまで来てくれてありがとう、子供たち。
私は大丈夫だから・・・、私の両親にはそう伝えておいて。
コタロウ:
ハイハイそうですかって見過ごせるかよ!ピッケ、鍵だ!鍵を出せ!!
ピッケ:
で、でも___
コタロウ:
お前とアルクと姉ちゃんが許せても、おれが許せねぇんだ!
連れてってやるから、顔くらい見せてこいよ!後で戻ってくれば良いんだろ?
アルティシア:
・・・善い考えよ!それだわっ!!
アルク:
コタロウにしてはマトモな意見だな。そうしてみるか。
ピッケ:
うんっ!・・・鍵を解いたよ。おいで!お姉さん!!
あっそうだ。このタリスマン、お父さんからだよ。受け取って。
ナレーション:
斯くして、アルティシアを地下牢から連れ出した御一行。しかし___
アルク:
足音がする。こっちへ向かって来るぞ!どうにかやり過ごせる場所は・・・、無いな。
コタロウ:
ピッケ、レストだ!
ナレーション:
そこへやって来たのは、数人の騎士と、豪華な装束に身を包んだ貴族の男。
その貴族は見事なハット、コート、スリーヴ、サッシュ、ブリーチ、ブーツを着込んでいる。
貴族の正体は、あろうことかタイランであった。
ピッケ:
レストオール!
ナレーション:
しかし、レストが効いたのは騎士だけ。
タイランが欠伸をする。
タイラン:
おっと、眠いな・・・。おや、アルティシアじゃないか!
ようやく反省して許しを請う気になったのか?それで善いのだ。
コタロウ:
いや違うね!この姉ちゃんは家庭に返す!!
ピッケ:
こ、コタロウ?!
タイラン:
その娘は私の手駒だ!返せ!!お前たち、起きんか!奴らをひっ捕らえるぞ!!
コタロウ:
こんなヤツに託してたらダメだろ!
ピッケ:
あぁもうっ!お姉さんは後ろに下がってて!!
ナレーション:
ピッケ御一行と、タイランとその側近との戦闘が始まった。
アルティシアがピッケ御一行の後ろへと避難する。
ピッケ:
しょうがない。・・・アストラルサン!!
ナレーション:
頭一つ程の大きさの擬似太陽がピッケの手の周りを舞い踊る。
ピッケ:
火傷して貰うよ!
ナレーション:
ピッケが擬似太陽を放って敵をけん制する。
騎士:
ひっ!!
タイラン:
子供の火遊びだ!怯むな!!
騎士:
ですが、鎧が溶け掛かっています!!
ナレーション:
騎士のけん制に成功する御一行。
タイラン:
ええい!軟弱者め・・・!!アクアメイルド!!
ナレーション:
タイランが防護魔法を掛けて、騎士共々、擬似太陽の熱による負担を減らす。
タイラン:
楽になったろう。行け!!
ナレーション:
ピッケ御一行とタイランの側近との白兵戦が始まった。
ピッケ:
ぶつけるよ!えい!!
アルク:
ピッケ一人で十分かと思ったが、槍と盾を使うとするか。・・・コントロルシールズ!!
ナレーション:
アルクの喚び声に応えて、複数の盾が現れて浮かび上がる。
コタロウ:
おらおらおらーっ!てい!!
アルク:
はぁあああああっ!!
ナレーション:
白兵戦の勝者は、ピッケ御一行であった。御一行に然したる負傷は無かった。
タイラン:
フン!使えない奴らめ。私の手を煩わせるとは・・・。
ピッケ:
二人とも、急所は外したよね?
アルク:
当たり前だ。
コタロウ:
当然!・・・動いたらどうだい?大将様よっ!!
タイラン:
そう言ってられるのも今の内だ、ガキ共!手始めに妖精から行くとしよう。・・・ボトルド!!
ナレーション:
タイランの魔法により、ピッケが瓶詰めにされてしまう。
ピッケ:
~~~~~~~~?!
アルク:
ピッケーッ!!
コタロウ:
てめぇ!ピッケに何しやがった!?
タイラン:
何も出来まい!その密封瓶は目に映り触れることも出来るが、この世から隔離されている。届かんよ。
ハハハ!一目見た時から、お前をこうしてやりたかったのだ!!
瓶詰めの妖精!本物を手に入れた!!
コタロウ:
もうキレた・・・!お前は絶対に許さねえ!!
タイラン:
激昂したか。しかしお前たち二人は私に平伏し、許しを請うことになる!クックック。
コタロウ:
何だと・・・?!
アルク:
次は何をする気だ・・・!
タイラン:
説明してやろう。聞いて驚け!私は遺失魔法を手に入れたのだ!!
アルク:
遺失魔法・・・?!
タイラン:
魔法の作用自体や、その副作用が危険である等の理由で存在を秘匿された魔法のことを言う。
私が手に入れた遺失魔法は、その前者の中でも強力なもの・・・!!
惜しみなく使って差し上げよう!
ナレーション:
タイランはそう言うと、彼の足元に整備の為の複雑な魔法陣を魔法で描き唱えた。
タイラン:
行くぞ!マスタースレイブ!!
ナレーション:
御一行の四方八方から、幾つもの太く黒い雷が飛んでくる。しかし___
アルク:
・・・?
コタロウ:
何ともないぞ・・・。
タイラン:
?!そんな馬鹿な・・・!?マスタースレイブ!マスタースレイブ!!
ナレーション:
御一行の四方八方から、また幾つもの太く黒い雷が飛んでくる。しかしこれもまた___
アルク:
・・・あぁ、分かったぞ。
コタロウ:
魔法の失敗か?
アルク:
違う。
タイラン:
何故だ!何故効かん?!私こそが支配者だ!謹んで私に従え!従えば許すと言っているのが分からんか!!
そう言えば、あの女にも効かなかった!だが、この魔法の下準備は完璧なはずだ・・・!!
・・・娘に狙いを変えよう。お前たちの目的は娘を奪還することだからな!!
アルティシアさえ、私の言うことを大人しく聞けば___
アルク:
もう止めておけ。立場に飲まれて正常な判断が出来ていない。
タイラン:
マスタースレイブ!!!
ナレーション:
幾つもの太く黒い雷がアルティシアを囲い突き刺したかと思えば、
それらは跳ね返り、今度はタイランを囲っている。
タイラン:
ひ・・・!ひぃ!!
道具屋の主人とその妻(M):
我が娘を至らしめた者に制裁を!!
ナレーション:
マスタースレイブの魔法が、タイランを突き刺す。
タイラン:
ぐぁあああーっ!!
ナレーション:
タイランが悲鳴を上げ、そして蒼褪めた顔で立ち尽くしている。
アルク:
確かに力は有って然るべきだが、それが人を不当に支配する手段であってはならない!!
人を導く立場に身を置く事を進んで選んだのなら、尚更と言うもの。タイランよ、其の咎を思い知れ!!
族技!ドラゴンスロワー!!
ナレーション:
アルクが槍を逆手に持ち、柄頭をタイランへ向け、それに竜の氣を纏わせて投げる。
その勢いは城の壁を破り、タイランを城外へと弾き飛ばした。
アルク:
職権乱用、及び監督不行届だな。これは。
コタロウ:
お前・・・!やるじゃねえか!!
アルク:
はは、まさかコタロウに褒められるとはな。
ナレーション:
ピッケに掛かっていた瓶詰めの魔法が解けていく。
ピッケ:
解けた!ってことは・・・。一番やっちゃいけないことを、しちゃったんだね。タイランさん。
アルク:
お前が散々喚いていたところ悪いが、奴には届かなかったよ。
コタロウ:
は?おれ、何も聞こえなかったぞ?!
アルク:
ピッケの性格を考えれば、聞こえなくても分かるだろ。察しが足りないな。
コタロウ:
な、何だよ・・・!どうせおれは空気読めねえよ!!
アルク:
察しが足りないとは言ったが、そこが悪いとは一言も言ってないぞ。コタロウ。
ナレーション:
ピッケ御一行が和気藹々(あいあい)としているところ、アルティシアが大いなる水を差す。
アルティシア:
・・・、マズいわ。こうなってしまった後では大王国劇どころじゃない!
ピッケ御一行:
・・・ぁ。
アルク:
しまった・・・!
ピッケ:
どどど、どうしよう!コタロウがあんなこと言うから!!
コタロウ:
おれのせいかよ!!
アルク:
せめて役者の方々には、白状しようか。
ナレーション:
戦闘が終わって一息吐いた頃は未だに夜中だったが、辺りは少しだけ明るくなっていた。
そして明日の朝、かくかくしかじかと事情を話すアルティシアとピッケ御一行。
シュモヌ:
はァ!?アンタたち、劇作家様を追い出しちゃったワケ?!
何てコトをしてくれたのよ・・・!!それに、行方不明ですって!?
ピッケ:
たぶん生きてるとは思うんだけど、アルクが大分遠くまで吹っ飛ばしちゃったから、行方までは分からなくて。
シュモヌ:
探して来なさいよ!
ピッケ:
そんなの見当付かなくて無理強いだよぉ・・・!
アルク:
済まない。禁止級の従属魔法が奴に跳ね返っている。頭の中が無事とも限らない。
シュモヌ:
じゃあ責任を取りなさいよ!責任!責任を!!
ダリー:
シュモヌ、それを言ったらお前も責任を取るべきだろう。
シュモヌ:
ダリー、何ですって?そもそもアタシがどうやって責任を取るのよ!!
ダリー:
本当に嫌な女だな、お前は。
シュモヌ:
あっそうだ!アルティシア。アンタ、歌が歌えたわよね?歌って誤魔化しなさいよ!!
アルティシア:
ぇ・・・?わ、私?!
シュモヌ:
そうよ!アンタが夜な夜な独り公園で大王国賛美歌の練習してるの、みんなみんな知ってるんだから。
歌を披露する時が来たのよ!今よ!今がその時なのよ!!演目の公演まで正直そんなに日もないんだから!ね!!
アルティシア:
楽団はどうするの?私たちの事情を汲み取ってくれるかしら?
シュモヌ:
それくらいどうにかしなさいよ。
ナレーション:
王立楽団の指揮者へと掛け合いに行く、アルティシアとピッケ御一行。
指揮者:
私に素人の手伝いをしろと?ハッ!するわけがなかろう。私たちの楽団は大王国附なのだぞ!!
アルティシア:
そこを曲げてどうか、御願い致します。
指揮者:
しないものはしない!!
ナレーション:
アルティシアたちの願いは、届かなかった。しかし___
ピッケ:
ぁ、そうだ!・・・フォニモ!!
ナレーション:
ピッケが精霊召喚を行使する。何人もの男女一対の音の精霊、フォニモが姿を現す。
ピッケ:
この子たちに頼めば、楽団、何とかなるよ!話は聞いてたかい??・・・うん。協力してくれるって!!
アルティシア:
本当?!本当に何とか、何とかなるのね・・・!私、頑張るわっ!!
ナレーション:
そして演目当日。ピッケの指揮とフォニモたちの演奏で、舞台の幕を切って落とした。
アルティシアの歌声の良さも相まって、演目は貴族と庶民の双方から好評を得ることが出来た。
ピッケ:
じゃあ、演目も終わったし、そろそろ行こうか。
アルティシア:
待って!子供たち!!
ナレーション:
アルティシアが、大王国から旅立つ御一行の元へと走ってくる。
アルティシア:
これ、あげるわ。舞台の上に落ちていた指揮棒よ。あなたなら使えると思って。
王立楽団の指揮者様が握っていた指揮棒に似ているけど、あの人きっと指揮棒を落としたりしないもの。
ナレーション:
アルティシアがピッケに指揮棒を手渡す。
その時、ピッケの視界が暗転していく。そしてどこからか声が、ピッケには聞こえる。
マスタータクト(M):
我を持つ者よ。其が我を使うに値するか、常に見ておるぞ・・・。
ナレーション:
ピッケの視界の暗転が解ける。
コタロウ:
顔が蒼いぞピッケ。どうした?その指揮棒おれに貸せよ!
ぁ、持ち手に何か書いてあるな・・・。えっと何々___
「tyrant knew faults at the last moment...」
・・・脅し文句か?これ。大丈夫だよ!お前は暴君になるようなヤツじゃないだろ?
アルク:
もし暴君になったとしても、叱ってやる。
お前なら、誰かから叱られた時に気が付くはずだろう?
ピッケ:
ありがとう、その時が来たら遠慮なく叱ってね。
頼りにしてるよ。
ナレーション:
ピッケは仲間との絆を実感しつつ、セルヒム大王国を後にした。
一方シュモヌは___
シュモヌ:
やっぱりコネよね!コネ!!
・・・きゃっ!いったぁ~い!何なのよぉ!!
ラミーナ(M):
人それぞれ正解は違えど、過ちを誤魔化しちゃいけないわ!そう、どんな立場であれ。
でも、だからって無理を敷いて生き急ぐ必要なんてものは無いのよ。
曖后のピッケ パイロット版 -セルヒム大王国編-
-了-
脚本担当からのメッセージ:
一見さま、御一読ありがとう御座いました。
演者の方々、御付き合いありがとう御座いました。
監督をなさっている方、タイランのように成らないでね。